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おばあちゃんち
                                  深澤友子

私の家造りの原点は、昔、夏休みになると姉達と行ったおばあちゃんの家にあるような気がしてならない。

回廊みたくに、中庭に面した薄暗い廊下を奥へ奥へ行った、一番奥の蔵を住まいとしていた。
そこに、黒くて長い髪をまとめて結ったおばあちゃんは、いつも静かに笑みを浮かべて、お~お~よく来たね...ととても嬉しそうだった。
真っ黒い猫もいた。今で言う二世帯住宅の走りであったろうか。そこには台所も付いていて、未だ座り式のキッチンであった。
流し台の前に正座して洗い物をする。水道は無く、かめに汲んである水を柄杓ですくって使う。まな板と包丁を出しての作業も座してするのである。
そんな、言わばキッチンセットの原始を直接見て知っている人は、そう多くは居まいと少々自慢するところである。
ただそこは、子供たちが大騒ぎをする場所ではないので、お駄賃をもらって早々に従兄弟たちのいる母屋に引き上げた。
今でも時折、あの静かで薄暗い落ち着いた空間を、そしてそこまでのアプローチであった廊下を思い出すのである。あくまでもシーンとしていたおばあちゃんち。
私の目指す家はつまり、静寂、背筋がピーンとする空間、息を吸い吐くことを暫し忘れるほどの佇まい。 かつておばあちゃんの家で見た景色がそれに似ている。と、何時までもそんな和の空間に憧れ、追い続けているのであります。
今、大きな悩みの中に居て、何があっても相変わらずに、背筋をピーンと伸ばすことの大切さを思い知らされている毎日であります。

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