top of page

モリラーメン
                                  深澤友子

 市内からちょっとはずれた、古い食堂の暖簾をかき分けて入ると、昔ながらの
懐かしいデコラのテーブルが五台、無造作に置かれ、十二時前であったことが幸いしてか、一つだけテーブルが空いていた。
 白いうわっぱりと前掛け姿の、もう若くもないおじちゃんが、マスクをかけ狭い店内を慌しく動く。

「ラッシャイ」

 床がコンクリートだから、脚が金物で、座がビニールでできたイスを引くと、
グァガガーッと音がした。座る。

   一緒に入った仕事仲間が「何にする?ここはモリラーメンだよ」と言い、お茶を
持ってきたおじちゃんに、「モリラーメン」と言いながら私の方を見た。私はその勢いに呑まれ、一応置いてあるメニューも見ず、「アッ、私もそれ下さい」と。でも食べら
れるかなーと少し不安になる。

 後になって分かったのだが、多少のメニューはあるものの、そこに居合わせた全員が、モリラーメンなるものを食べていた。

   二十人分のイスしかない食堂で、相席は当たり前。食事を待つ間、電話で外に
出ると、長い行列。

   そして少しすると、まず盛り蕎麦が出てきた。山盛り状態の蕎麦。それがまた、
美味。

 食べ終わってゆで湯を飲んでいると、「ラーメンお待ちどー」で、醤油のかなり濃いラーメン登場。満腹一歩手前のお腹には、この醤油の濃さがよい加減であった。
両方とも私の中では合格である。

   つまりモリラーメンとは、盛り蕎麦とラーメンを一度に食すことのできるメニューなのでありました。量は明らかに二人前でしたが、不思議と入ってしまったのであります。

   そしてまた、グァガガーッと音を立て立ち上がり食堂を出ると、外には未だ
十二時四十分頃にも関わらず、「本日は終了しました」と、ダンボールに白い紙を貼り付けただけの立て札が、入り口辺りに転がっていた。
おじちゃんとおばちゃんの店のモリラーメン。

 暫くはお蕎麦もラーメンも、いいわ!

 と、ある日のランチタイムの出来事でした。モリラーメン一度ご体験下さい。

bottom of page